CEO

シリコンバレー拠点のベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツを率いるベン・ホロウィッツ氏。ツイッターやフェイスブック、Skype、Airbnbなどの成長企業にいち早く投資してきた。ベンチャーキャピタルを始める前は、大企業向けデータセンター運営を手掛けるオプスウエアでCEOを務めた異色の経歴の持ち主。この経験を生かした自身の投資手法や、CEO論について話を聞いた。

ベン・ホロウィッツ氏

1966年生まれ。シリコンバレー拠点のベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者兼ゼネラルパートナー。かつてCEOを務めた経験を生かし、有力なベンチャーに次々と出資している。(写真:陶山勉)

シリコンバレーにおけるベンチャー企業の動向について教えてください。今後特に成長が見込まれるのは、どのような分野でしょうか。

ホロウィッツ氏:技術の視点では、ビッグデータ、ビットコインのような暗号型通貨、ドローン、シミュレーション、AI(人工知能)そしてネットワークやインフラ型のサービスに注目しています。 

シリコンバレーには多くの日本企業が進出しており、出資も相次いでいます。シリコンバレーへの資金流入は今後も続くのでしょうか。

ホロウィッツ氏:既に多額の資金が流入していますが、取り組むべき分野はまだたくさんあります。バイオロジーやAI、生物学、ロボット学といった研究ベースのベンチャーなど、新しい分野に資金が流入しており、投資家の種類が代わりつつあります。

 確かに、プライベートな市場では、上場市場に比べて非常に高い価格が付いており、今後、価格の調整というのはあり得ます。ただ、上場した株式市場と比べた時に、成長率などを比べると、そこまでおかしな状況にはなっていません。

現在の投資先はシリコンバレーがほとんどです。今後、海外のベンチャーに投資していくことはあるのでしょうか。

ホロウィッツ氏:現在はシリコンバレー内のシェアを伸ばすことが正しいと考えています。一方で、いくつか海外で投資しているところもあります。最も面白いのは、イスラエル、中国、コンピューター科学者がいるエストニア、フィンランドです。ロンドンも最近面白くなっていますね。日本も面白くなってきてはいますが、中国と比べても起業家の数が少ないのがネックです。

Airbnb投資の決め手の1つはCEOの経歴

これまで、ツイッターやフェイスブックなどの成長企業に、いち早く投資をしてきました。ホロウィッツさんが投資先を選ぶときに、何をを重視しますか。

ホロウィッツ氏:基本的には、創業者の資質とアイディアの斬新さの組み合わせを見て投資判断をします。

 投資をしようと思わせるCEOとは、オリジナルな考え方を持っており、周りや他の人に影響されない人です。会社を作り切るという勇気やリーダーシップを持っていて、優秀な従業員を惹きつける人でなければなりません。

 特に、勇気を持っているかどうかを重視しています。CEOにとって、最も難しいのは、自分があることを主張して、他の全員がそれに反対している時です。リーダーが間違っていれば、リーダーの価値をみんなが疑うようになってしまいます。みんなが反対していても、正しいことを決断していく勇気をリーダーは持たなくてはなりません。

今話題のAirbnbにもいち早く投資しています。

ホロウィッツ氏:Airbnbについては、投資した当初、みんながクレイジーな企画だと思っていました。自分の部屋の1つを貸すなんて、危険だ、と。しかし、経営陣はそこに需要を見出していました。

 と言うのも、彼らはある実験をしていたんです。サンフランシスコで大きな会議があった時に、そこでマットレスを貸し出しました。すると非常に大きな需要があった。そこに市場があると経験して知っていたんです。

 一方で、彼らはホテルの歴史を探っていきました。ホテルは、この100年で大きな成長していますが、これはB&B(ベッド&ブレックファースト)を高級化してきた歴史なんです。B&Bは質にばらつきがありましたが、ホテルは質を一定に保つことで差別化していきました。

 Airbnbも、インターネットを利用してB&Bの質を変えることができるんです。利用したゲストが下した評価がわかるし、宿は個性を出せる。その仕組みで、質を上げていきました。

 こうした事業モデルとともに、CEOにももちろん注目しました。AirbnbのCEOは、海兵隊とデザインスクールに行くという非常に珍しい経験をしていました。大きな組織を率いると同時にイノベーションもできたんです。

シリコンバレーではデザインを重視する傾向が強まっているようですね。

ホロウィッツ氏:歴史的に見ると、かつて、シリコンバレーでは90%以上の会社が他社にテクノロジーを売っていました。マイクロプロセッサーやOS、データベースやサーバーを売っていたわけです。しかし、スマートフォンの普及以降は、直接消費者にサービスや商品を販売することになり、質の高いデザインが重視されてきました。デザインは今後、より重要な要素になります。

ベンチャー投資を始める前は、大企業向けデータセンター運営を手掛けるオプスウエアでCEOを務められました。その経験があるからこそできる投資というのはありますか。

ホロウィッツ氏:ヘッジファンドなどと違って、ベンチャー投資では、起業家が誰と組みたいかということが重要になります。最も優れた起業家は、最も優れた投資家からしか投資を受けようと思いません。起業家たちは、そういった経験を持った投資家として私を信用してくれています。

戦時のCEOは社内で育てるしかない

自身の経験を基に、著書「HARD THINGS」では独自のCEO論を展開しています。難局で力を発揮する「戦時のCEO」と平時に強いCEO、両方の面が必要だとの記述が印象に残りました。大企業からも戦時のCEOは生まれるのでしょうか。

ホロウィッツ氏:会社内の文化や国の文化によります。たとえば、日本は1980年代に非常に強くなりました。プロセスや質を重視し、大量生産では非常に強くなった。それは、平時の対応です。戦時の意思決定は一人でしなくてはいけません。平時の文化で育ってしまうと、ある日突然、戦時のCEOになるのは、経験が生きないので難しいでしょう。例えば、米アップルでは、一人のCEOがずっと意思決定していました。そこから戦時のCEOが出てくるのはより自然なことです。

 イノベーションを起こし、新しいモノやサービスを生み出す時には、複数の人のコンセンサスを得てやるのは難しいです。グーグルやアップルなど、成功している米国の企業はイノベーションで大きくなってきました。イノベーターが会社を動かしてなければ、革命を起こし続けるというのは難しい。

 革新が生まれなくなった組織を変えるのは、創業者がCEOでない場合はとても困難です。これはアメリカでも起こっていることです。マイクロソフトはイノベーションの会社から一時プロセス重視になっていましたが、最近になってまたイノベーションの企業になろうとしています。新しい事業を育ててこなかった問題に、彼らも気づいたんでしょう。

 社内で新しいものを作りたければ、外の人を連れてきても難しいでしょう。外のCEOは、現在のビジネスを最適化することはできますが、新しいビジネスを作るのには適しません。


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